膵β細胞では、グルコース濃度の上昇に伴ってインスリン分泌のみならず、インスリンの生合成も亢進する。これは、膵β細胞内で、グルコース刺激に伴い細胞内cAMP濃度やカルシウム濃度などが上昇し、これらの細胞内シグナルがprotein kinase A(PKA)やcalmodulin kinase IV(CaMKIV)の活性化を介し、インスリン遺伝子などに存在するcAMP responsive element(CRE)に作用することが重要であると考えられた。そこで、膵β細胞に発現する転写因子ATF2(CRE-BP1)とCREMに着目して、検討を進めた。ATF2をラット初代培養ラ氏島に遺伝子導入すると、グルコース応答性は増強した。同じファミリーに属する転写因子CREBの導入では、グルコース応答性がほぼ消失したこととは全く異なる結果であった。ATF2の転写活性化領域は、CaMKIVによって活性化されたが、PKAでは活性化されなかった。この活性化には、3ヵ所のスレオニン残基が重要であった。一方、CREMはalternative splicingによって作用の異なるisoformが産生されるが、膵ラ氏島で発現する新たなisoform、CREMΔQ1、CREMΔQ2、CREM-17、CREM-17Xを見出した。また、CREMのP領域(特にPKAによってリン酸化される117番目のセリン残基)、Q領域が、グルコース応答性に活性化され、基本転写因子TBPやTAF130と結合して転写を調整することを見出した。以上の結果より、CREを介する転写調節は、グルコース応答性に非常に重要な作用を有することが明らかとなった。
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