研究概要 |
本研究では、はじめにセルソーターを用いて骨髄、末梢血、臍帯血由来のCD34^+細胞を高度に純化し、細胞表面の各種(分化)抗原、サイトカイン受容体、さらにgp130の発現レベルについてマルチカラー解析を行なった。その結果、これらの抗原や受容体の発現レベルには幹細胞起源により大きな差異のあることが明らかになった。詳細は、研究成果報告書に記載した通りである。以下に造血シグナル間のクロストークの分子機構の解明の端緒となった発見についてまとめる。末梢血より分離したCD34^+IL-6R^-細胞を標的細胞として、IL-6とsoluble IL-6 receptor(sIL-6R)を用いてgp130のシグナルを活性化し、同時に、c-kit,IL-3Rを介するシグナルも活性化した。gp130を介するシグナル単独では幹細胞に対して有意な作用を示さないが、これらの3つのシグナルを同時に活性化すると劇的な協調作用が認められた。すなわち、G-CSF,Epo,TPOなどの細胞系列特異的因子非依存性に3系統の成熟血球が誘導されたのである。各々のシグナルの意義をまとめると、(1)IL-3Rを介するシグナルは幹細胞の生存や初期の増殖に必須であること、(2)SCFはIL-3の存在下における幹細胞の増殖を促進すること、(3)gp130を介するシグナルは主に成熟因子として作用することなどである。次に、末梢血よりCD34^+c-kit^<high>細胞(90%がBFU-E)をセルソーターにより採取し、in vitroで培養することにより大量のCFU-E(10^7個以上)を得る方法を確立した。これらの細胞より細胞可溶化物を調整し、まず3シグナルで刺激後のチロシンリン酸化パターンをEpo刺激後と比較検討した。また、JAK-STAT系、MAPK系、PKC系の関与について、免疫沈降法、Western blotting法、ゲルシフト法などを用いて検討を加えている。 周知のように、これまでに明らかにされたシグナル伝達様式は、細胞株や動物種毎に異なっている。今後の研究では、これまでに明らかにされたシグナル伝達機構の一端を、正常血液細胞で確認することが不可欠である。その過程で、ユニークな造血シグナル間のクロストークを解明する新たなシグナル伝達物質や伝達機構が明らかになるものと期待される。
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