本研究の目的は、肝切除の周術期に肝賦活特殊治療を複合的に行って、肝予備能を高めることにより、全肝血行遮断下の肝切除の安全性の向上と手術適応の拡大を目指すものである。本年度は以下の実験を行い、次年度の研究の基礎的事項の検討を大略終了した。 1、肝血行・代謝動態の検索システムを構築した。即ち、肝動脈、門脈血流量の連続測定と電算機入力、動脈、門脈及び肝静脈血の持続的ガス分析値と電解質検査値の電算機入力の両者から、肝酸素消費量及び電解質代謝の連続測定と電算機処理を可能にした。 2、肝動脈からの選択的PG-E1注入が、肝血流量増加と肝のビリルビン代謝機能改善に有用であることを、犬と豚の実験で明らかにした。 3、肝全血行遮断の施行後の肝障害に比べて、肝流入血行のみの遮断のそれが軽度なのは、後者においては下大静脈から肝静脈へ血液が逆流し、肝流入血行遮断中も肝に酸素供給をしているためであることを明らかにした。 4、肝細胞内Heat Shock Protein(HSP)誘導による肝細胞保護作用の増大の基礎実験を行った。我々は、すでにラット温度負荷をすることでこれを確認しているが、今回は犬、豚について行った。即ち、肝血行を全身血行から分離し、肝単独の潅流液を加温する方法と、動物にamphetamineを投与し発熱させる方法を試みた。前者は、繁雑で動物への侵襲も大ではあるが温度負荷の調節が的確にできる利点があり、後者は低侵襲ではあるが薬物に対する個体差のために温度負荷の調節が困難で、HSPの誘導量の変動が生じる可能性がある。現在薬物投与量と発熱程度、HSPの誘導量の調製中である。
|