ミトコンドリアの膜電位低下および電子伝達物質の一つであるcytochrome cの細胞質中への流出はアポトーシス進行時の共通経路に組み込まれていることが明らかになっている。しかしながらcytochrome cの流出がアポトーシス進行の非可逆的因子であるのか、もしくは可逆的因子であるのかに関しては現在のところ全く不明である。今回われわれはこの点を明らかにするために生存因子としてIL-3を必要とするmurine pre-mast cell lineであるIC2.9を用いて検討を行った。またアポトーシス抑制因子であるv-Abl tyrosine kinaseを遺伝子導入したIC-DP cell lineも同時に使用した。V-Abl遺伝子は温度感受性領域を組み込み39℃で不活化され、32℃で活性化されアポトーシスを抑制するように設計した。IL-3除去後12時間で膜電位の低下、18時間で細胞質中へのcytochrome cの漏出を認めた。IL-3除去前にv-Ablを活性化させるとBcl-XLの発現とともにcytochrome cの漏出抑制、アポトーシスの抑制を認めた。一方IL-3除去18時間後にv-Ablを活性化させると40%の細胞は膜電位が回復しアポトーシスに陥らなかった。以上の結果よりcytochrome cがいったん漏出した後でも、初期であればアポトーシスの進行をv-Ablの活性化によりくい止めることが可能であることが明らかになった。
|