研究概要 |
1) 外科的ストレスのひとつとして人工心肺を伴う開心術における虚血再潅流障害をとりあげ、血漿中のTRX値を測定した結果、血漿中に酸化型TRXが上昇することが明らかになった。血漿TRX値の測定は外科的ストレスの新しいモニターリングシステムになると考えられた。 2) シスプラチン(CDDP)がTRX還元酵素活性を阻害すること、CDDP耐性細胞株ではTRXのみならずTRX還元酵素も誘導されていることを明らかにした(Sasada,et al.Free Radical Biol.Med.in press)。臨床例においても、免疫組織染色法により消化器癌においてTRXの発現が多いことを明らかにした(Nakamura,et al.Cancer Detection Prevention in press)。抗癌剤耐性機構にTRX系が深く関与していること、TRX系の阻害が抗癌剤耐性克服に重要であることが示唆された。 3) 細胞内チオールを酸化すると、ミトコンドリアからのチトクロームc放出、caspase-3活性化がおこり、細胞はアボトーシスに陥ることを明らかにした。細胞内のレドックス環境の維持がアポトーシス制御に重要であることが示唆された(Ueda,et al.J.Immunol.161:6689-6695,1998.) 4) 肝硬変ラットモデルにおいて、肝内リンパ球内のグルタチオン量の低下、NK活性の低下を認めた。肝内リンバ球のNK活性は、グルタチオンの前駆体であるN-アセチルシステイン投与により回復が認められた(Tsuyuki,et al.Int.Immunol.10:1501-1508,1998.)。 5) クレアチニンキナーゼを肝特異的に発現させたトランスジェニックマウスにおいて、リポポリサッカライドおよびD-ガラクトサミン腹腔内投与による急性肝障害を作製したところ、肝内ミトコンドリアにおけるATP産生能が維持され、肝障害の軽減がみられた(Kanawa,et al.J.Surg.Res.80:229-235,1998)。4、5)より肝におけるレドックス環境の維持が抗腫瘍活性を含む生体応答機構の維持に重要であることが示唆された。
|