研究概要 |
低体温体外循環における脳保護の基礎的および臨床的研究として現在以下の3件について研究中である。 【研究1】軽度低体温下循環停止における薬理学的脳保護 生後一ケ月の豚を用い体外循環を確立。軽度低体温(鼓膜温30℃)下でP31-MRスペクトロスコピーを用いて脳内燐エネルギー代謝の時間的推移を検討する。脳保護剤としてAMPA receptor antagonistであるYM90Kを用いた。実験条件は常温にて体外循環確立後冷却,その後循環停止60分を行った後,再灌流復温する。この条件下にて循環停止前にYM90K投与する群と投与しない群とに分け両群での脳内燐エネルギー代謝に関して比較検討する。 (結果)循環停止にて両群ともにphoshocreatine(PCr)ATPは減少しpHは低下する。しかし再灌流後PCrは非投与群で循環停止前の約50%にしか回復しないのに対し投与群ではほぼ完全に回復する。ATPは両群ともにほぼ前値にまで回復する。細胞内pHは非投与群が再灌流後もアシドーシスに陥ったままであった。 (結論)YM90Kは体外循環時の薬理学的脳保護に有用である。 【研究2】体外循環中の脳障害の指標としてのS-100蛋白に関する臨床的検討 脳虚血障害にてastrocyteよりS-100蛋白が血液中に放出され脳障害の早期指標として期待される。現在,通常の冠動脈バイパス術,弁置換,及び脳分離体外循環を必要とする胸部大動脈瘤症例にて体外循環中のS100蛋白の推移をradioimmunoassayを用いて測定,比較検討している。 (結果)冠動脈バイパス術,弁置換症例では体外循環中はS100蛋白は経時的に上昇するが24時間後は術前値に回復する。大動脈瘤症例に関しては現在検討中である。 【研究3】近赤外分光モニターを用いた体外循環中の脳酸素代謝に関する臨床的検討 近赤外分光モニターにより脳内酸化還元ヘモグロビン濃度の測定が可能であり現在これを用いて体外循環中の脳組織酸素化状態を検討しているところである。低体温による酸素化の相違,また体外循環様式の違いによる酸素化の相違,殊に脳分離体外循環中の至適灌流条件を求めるための臨床的検討を行っているところである。
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