今日、日本においても心血管系の疾患を持つ患者は増加傾向にあり、それに伴って虚血性心疾患に対する外科治療を受ける患者も増加している。虚血性心疾患の外科治療には冠動脈バイパス術以外には遺伝子導入によるあるいはレーザーにより血管新生療法が注目されている。われわれは内因性サイトカインに注目し、抗血栓性に優れたハイブリッド小口径代用血管の開発を試みた。本年度は血管新生の過程を観察するためにRabbit ear chamberモデルを用いたところ、レーザーを用いなくとも、宿主の内因性サイトカインを効果的に利用することで長さ3mmの新生血管を得るのに3週間しかかからなかった。血管新生のためには血管芽の誘導が重要であり、感染あるいは出血が負に働くことを観察した。また、血管新生は静脈側からループ状に起こり、3週間後に動脈側が出現し、動脈には平滑筋層が出現した。開発する人工血管は直接バイパスするグラフトから側副血行路を導こうと考えていたが、静脈側から血管新生が起こることで虚血部から新生血管を伸展させる構造の方が良いことが示唆された。今まで心臓外科医は血管新生療法に興味を持っていても血管新生の機序を目にすることが少なかったため、新たな事実を明らかにできたと考えている。
|