研究概要 |
ユビキチンは76アミノ酸残基からなる蛋白であり、ATP依存性の非リソゾーム細胞内蛋白分解系に必須の要素である。変成蛋白にユビキチンが結合すると、それは速やかに26Sプロテアゾームにより分解される。しかし、この制御系は変成蛋白の処理のみならず、各種の細胞内の短半減期の調節蛋白の総量制御にも関わっている。この中にはアポトーシスに関連するp53やNF-kBなどの蛋白も含まれている。われわれは既に虚血による海馬CA1錐体細胞の遅発性神経細胞死において、非常に早期にユビキチンの免疫染色性が激減し、それがフリーのユビキチンの減少に基づくものであることを示してきた(Am J Pathol 148:249-257,1996)。さらにこの変化を詳細に裏付けるために、次の実験をおこなった。(1)ユビキチンのfree form、conjugated formをそれぞれradioimmunoassayおよびELISAにより定量し、前記の免疫染色と一致する結果を得た。(2)虚血耐性(J Cereb Blood Flow Metab 11:299-307,1991)を穫得した条件下では、free formは減少せず、返って虚血後に増加した。これは海馬神経細胞がストレス応答を示したものと考えられる。(3)砂ネズミユビキチンのRNA probeを作成し、上記と同一の条件下でin situ hybridizationを行い、mRNAレベルでは、いずれの条件下でもmRNAの発現を認めることが確認できた。耐性のない条件下では、蛋白合成を認めず、translational blockのかかっていることがわかった。以上の結果はアポトーシスの一種と考えられる海馬の遅発性神経細胞死の過程にユビキチンが関与していることを示している。
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