研究概要 |
神経膠芽腫が摘出時多数の壊死巣が認められるという脳腫瘍病理学上の基本問題を分子生物学的に解明し、この機序を利用して治療に結び付けることをことを目指しており、壊死発現機構を壊死誘発因子と壊死原因遺伝子の解析をおこなった。 (1)悪性神経膠腫の細胞株U87MG.T98Gに対して、生体内に極めて近い状態で壊死誘発因子となりうるもの、すなわち1)低酸素、2)低栄養状態の刺激を加えて細胞死の誘発が可能かどうかを調べた。この結果72時間の刺激では細胞死を誘発することができなかった。変わって抗癌剤では腫瘍細胞死を誘発することができた。抗癌剤の刺激のためかFas/Fas-ligand経路は腫瘍細胞死には関与しなかった。カスパーゼの中ではCaspase-3のみが抗癌剤による細胞死に関与し、U87MGおよびT98Gに対するCDDP刺激でpro-Caspase-3の増加と活性化が36時間後に得られ、24時間後からPARPの切断化が出現しアポトーシスが誘発された。(2)ヒト神経膠芽腫摘出材料11例に対して、壊死周辺細胞におけるFas,Fas-L,Casp-1.2.3の抗体で同定した。その結果、壊死巣周辺のみの腫瘍細胞に有意に発現していたものはFasとCaspase-3であった。さらに、Casepase-3の活性型をin situで同定した。このことから、壊死巣周辺では何らかの刺激に対してFasとCaspase.3の過剰発現さらに活性化が生じアボトーシスが誘発されることが示唆された。以上より、神経膠芽腫の壊死誘発遺伝子の最終経路として、Casepase-3の活性化が重要であり、今後はCasepase-3の活性化を誘発する治療の開発に取り組む予定である。
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