カルシウムイオンは、生命活動の維持に重要な役割を担っている。脳においては、高度なエネルギー代謝を維持するために脳血流量の調節が厳密に行われている。その本体は、血管平滑筋細胞におけるカルシウムイオンの細胞内流入が律速段階となっている。しかしながら、脳血管におけるカルシウムによる収縮弛緩機構は不明な点が多い。今年度は、クモ膜下出血後脳血管攣縮におけるミオシン軽鎖のリン酸化レベルと収縮調節タンパクの発現量の変化を正常脳血管と比較検討した。その詰果、正常脳血管ではカルシウム依存性のミオシン軽鎖のリン酸化反応が収縮反応とともに見られたが、脳血管攣縮においてはリン酸化反応と収縮反応ともに有意に、減弱していた。また、h-caldesmonやcalponinなどの収縮調節タンパクの発現量は、脳血管攣縮の極期において有意に減少し、攣縮の回復にしたがって正常となった。これらの結果より、脳血管攣縮のような長期にわたる血管平滑筋収縮反応は、死後硬直に類似した一過性のエネルギー供給不全が原因であることが示唆された。一方、脳組織におけるカルシウムシグナルも脳虚血の進行とともに増強することが判明した。今後は、脳虚血再還流モデルにあげるカルシウムシグナルの経時変化と神経細胞死との関連を詳細に検討する。
|