研究概要 |
カルシウムイオンは、様々な生体反応を惹起することが知られている。しかしながら、過剰なカルシウムイオンの細胞内流入によって、機能障害や細胞死が誘発される。細胞内カルシウムイオンの上昇は、各種の蛋白分解酵素やカスペースを活性化する。後者は、p53遺伝子の発現を介してアポトーシスに至るカスケードを賦活化する。アポトーシスは、脳虚血などのストレスが加わった時点よりある程度の時間差をもって発生することが知られている。その時間差の中のどの時期に治療を開始するとアポトーシスが防げるかという点は不明である。細胞の蘇生限界点に関する報告は、極めて数少ない。我々は、今回の研究では細胞死に至る初期段階の細胞内カルシウムイオン上昇に注目し、生体における異常なカルシウムイオン上昇を可視化することを目的とした。ラットに全身麻酔を施し、開頭、脳表を露出した。Fra-2AMを直接脳表に投与し、一時間浸透させた。さらにRose Bengal色素を静注し,540 nmの緑色光を中大脳動脈近位部に照射した。顕微鏡下に白色血栓の形成を観察した後に340nmと380nmの光を照射し、蛍光を励起した。得られた蛍光の強さをカルシウムシグナルの強度とした。カルシウムシグナルは励起後5分後より上昇し始め、60分後にはピークとなり安定化した。カルシウムシグナルの強さは、病理組織所見と相関し、虚血中心部>ペナンブラ部>正常部の順であった。また、血管構築上は中大脳動脈分岐部に虚血が強く、末梢では側副循環が発達しているせいか軽度であった。したがって、カルシウムシグナルの強度は同心円状に中心部(強)から末梢(弱)に広がっていた。この分布は、脳硬塞巣の広がりと一致しており、典型的は3層構造であった。我々のモデルは、脳硬塞の病態生理を解明する上で非常にシンプルであり、治療介入時期を明らかにする上で極めて有用であるものと思われた。
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