我々は嗅覚機能の客観的評価および術中モニタリングへの応用を目的として、嗅粘膜電気刺激による嗅覚誘発電位の記録を試み、すでにイヌを用いた動物実験にて嗅粘膜電気刺激による嗅覚伝導路起源の誘発電位と証明した。 動物実験の結果を基にした臨床応用においても、直径0.7mmの微小ファイバースコープを用いることにより、経鼻腔的に嗅粘膜の観察および刺激電極の嗅粘膜上への誘導が可能となり、嗅粘膜を電気刺激することにより頭蓋内嗅索上から嗅覚伝導路起源と考えられる誘発電位を記録できた。記録された誘発電位はピーク潜時が約27msecで、再現性が良く、筋電図および刺激等のartifactは否定され、高頻度刺激による反応の減弱および測定電極の位置変化によるピーク潜時の変化等、シナプスを介した反応であることが強く証明された。実際、術中に本誘発電位が安定して記録できた症例では術後に嗅覚障害を呈することはなく、本法による嗅覚機能評価の可能性が示唆された。 しかし、鼻中隔が極度に偏位している症例では誘発電位を記録できず、これはファイバースコープを用いても刺激電極の嗅粘膜上への固定が困難であったためと考えられ、新たな刺激電極の開発が必要と思われる。また、頭蓋内嗅索から誘発電位が記録できた症例においても頭皮からは記録できず、悲観血的な機能評価のために測定部位および測定方法について検討中である。 なお、対象は前頭蓋窩の手術操作により嗅覚障害を引き起こす可能性があった症例で、術前には患者本人から承諾を得て実施した。
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