【目的】従来の人工股関節の力学解析において、ヒトの歩行運動に基づいた動的な荷重条件を考慮した報告はほとんどない。そこで本研究では、歩行中の動的股関節合力を算出し、これを人工股関節の3次元有限要素モデルに荷重条件として負荷した上で、人工股関節のポリエチレン摩耗についての経時的力学解析を行う。 【方法】(1)正常人のVICONによる歩行分析データを基に、SIMMGAITやADAMSを用いて3次元動的computer simulationを行い、歩行中の股関節合力の動的変動を算出し、これを過去のテレメータによるin vivoの文献計測値と比較・検証した。(2)実際の人工股関節の再置換術を要した1症例の術前歩行分析から得られたデータを基に、同様の方法で歩行中の動的股関節合力を算出し、これをその症例に設置されていた人工股関節の精密な3次元有限要素モデルに作用させ、1歩行周期あたりの摩耗量および患者の万歩計から得られた年間平均歩数を乗じて再置換に至るまでの総摩耗量を算出・推定した。さらに、この計算値を実際の人工股関節の抜去標本による摩耗実測値と比較検討した。 【結果】(1)本手法による正常人の歩行中の動的股関節合力は、大きさ・方向ともに過去のin vivoの計測値とほぼ一致していることが確かめられた。(2)本症例の有限要素解析より算出した年間および総体積摩耗量および摩耗の方向は、抜去標本の摩耗実測値と非常によく近似していた。 【考察】本手法によって、実際の人工股関節の摩耗の進展様式をある程度予測することが可能であると思われた。しかし、本手法の問題点として、解析上流体潤滑などの条件が加味されていないこと、術直後からすでに定常摩耗に入ったものと仮定していることなどがあげられる。しかし今後症例を重ね本手法を吟味・改善することによって、より実際的で詳細な生体内での人工股関節の摩耗解析が可能になるものと思われる。
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