頚椎部脊髄症の発生頻度は本邦においては決して少なくない。しばしば重篤な四肢麻痺や感覚障害を来たして、日常生活に大きい支障をもたらす疾患である。手術的治療にあたり、現在では椎弓切除術と椎弓形成術とが使い分けて用いられている。椎弓切除術は後方除圧としては優れているが、頚椎の後方要素を破壊するために、頚椎の支持性に対する不安が残存する。その利点を生かしながら、欠点を克服するために、椎弓形成術が本邦で開発され、現在では広く普及しており、臨床的な有用性は認められている。しかしながら、椎弓形成術(椎管拡大術)の生体力学的な検討は行われていない。 そこで、動物実験(サル及び家兎)を行い、両者をX線的観察・力学的解析及びコンピューター・シミュレーションを行い、さらに臨床的な術後追跡調査を行った。 その結果、動物実験においては明らかに椎弓形成術群において生体力学的に有利であった。しかし、臨床的には両群とも不安定性を認めなかったことを勘案すると、脊椎症性変化が乏しい場合には椎弓形成術が有利であるが、頚椎症を呈している中・高齢者においては顕著な差異となって認めにくく、椎弓形成術は術後早期の装具装着期間をやや短縮させ、また若年者には有利である。
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