アナフィラキシ-発症時には一酸化窒素(NO)が産生され、その病態形成の一翼を担っている。われわれはアナフィラキシ-発症時には誘導性一酸化窒素合成酵素(inducible nitric oxide synthetase : iNOS)は誘導されず、構成性一酸化窒素合成酵素(endothelial nitric oxide synthetase : eNOS)のみから急激な大量のNOの産生がおこり、そのNOがアナフィラキシ-時におこる循環抑制、気管支痙攣に対し保護的に働くことを明らかにしている。また、ショック発症時に産生されるNOはDNAの損傷を起こし、そのDNAの損傷により、修復酵素であるpoly(5'-diphosphoribose)synthetase(PARS)が活性化される。PARSが過剰活性されると細胞のエネルギー枯渇を引き起こし、最終的には細胞を死にいたらしめることが明らかにされている。我々の知る限り現在までアナフィラキシ-発症時のPARSの役割は検討されていない。そこで今回、我々はアナフィラキシ-発症時のPARSの役割を検討した。アナフィラキシ-発症時にPARSを抑制することで、アナフィラキシ-発症早期の循環抑制、気管支痙攣、生存率が変化をするかどうかを検討した。28羽の家兎を無作為に3群に分けた。1群(対照群)は、抗原投与前10分から実験終了まで生理食塩水を点滴静注した。2群は、3-aminobenzamide(PARS抑制薬)20mg/kgを抗原10分前に投与し、引き続き3-aminobenzamide 20mg/kg/hを実験終了まで点滴静注した。3群は、3-aminobenzamide 40mg/kgを抗原10分前に投与し、引き続き3-aminobenzamide 20mg/kg/hを実験終了まで点滴静注した。測定項目としては、脈拍数、平均動脈圧、中心静脈圧、肺抵抗、動肺コンプライアンスを測定し、実験終了時の生存率を求めた。3群間において各測定項目間に有意差は見られなかった。PARS抑制薬はアナフィラキシ-モデル家兎を用いたin vivoでの実験では、全身性アナフィラキシ-早期に見られる循環抑制、気管支痙攣を改善しなかった。結論としては、アナフィラキシ-発症早期の病態形成にはPARSにより引き起されるエネルギー消費を伴うDNA修復経路の活性化は関与していないことを明らかにした。
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