研究概要 |
腎癌悪性進展に関連するグロボシリーズガングリオシドの出発物質であるmonosialosyl galactosyl globoside(MSGG)を規定するα2,3-sialyltransferaseのクローニングを目的として、まず、発現クローニング法、次いでPCR法の両面から試みた。これまでのところは結果的に、発現クローニング法によりシアリルトランスフェラーゼは得られなかったが、濃縮されたcDNAとして5' precursor of rRNA,Placental transforming growth factor β,unknown cDNA,etc.が同定された。これらとMSGGの関連については、現在検討中である。一方、PCR法によりhST3Gal I,hST3Gal IVが同定された。hST3Gal Iはノーザンブロッティング上、腎癌の癌化や悪性化との明らかな関連は認められなかった。また、調べた限りのstable transfectantのうちMSGGの発現を示すものは見られなかった。hST3Gal IVのstable transfectantはmoderateながら、MSGGを発現した。腎癌組織のノーザンブロッティングにて、正常腎組織の殆どでhST3Gal IV transcriptの発現が亢進しており、逆に癌組織ではその殆どで発現が低下し、発現上昇の見られた症例の予後は良好であった。以上より、hST3Gal IVは分化に関連していることが示唆された。したがって、MSGGの合成に関わるα2,3-sialyltransferaseは他にも存在することが予想され、おそらくそれが腎癌の悪性進展とのかかわりを有するものと考えられるため、現在もなおそのcDNAを探索中である。尚、本研究過程で、以前われわれが報告したdisialosyl galactosyl globoside(DSGG)の他、同じ移動度にN-acetyl-galactosaminyl disialosyl type1 chain paragloboside(GalNAc DSPG-1)があることを見出した。また、DSGGは中胚葉由来の組織に分布することを見出した。更に、腎癌ではMSGGとGM3の発現が癌細胞の増殖程度に応じて逆相関することを見出した。
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