研究課題/領域番号 |
09470358
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
産婦人科学
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小西 郁生 京都大学, 医学研究科, 講師 (90192062)
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研究分担者 |
佐川 典正 京都大学, 医学研究科, 助教授 (00162321)
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研究期間 (年度) |
1997 – 1998
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キーワード | 卵巣癌 / 不妊症 / ゴナドトロピン / LH / hCG receptor / アポトーシス / insulin-like growth factor-1 / 卵巣表層上皮 |
研究概要 |
卵巣癌は、女性性器に発生する悪性腫瘍のうちで最も予後不良の疾患であるが、近年、排卵誘発を含む不妊症治療中に発生した卵巣癌の症例報告が認められ、不妊症治療と卵巣癌発生との関連性が注目されている。本研究は実際に不妊症治療中や治療後に発生した卵巣癌がどのような生物学的的特徴を有するかを明らかにすること、さらに、排卵誘発に用いられるゴナドトロピンが卵巣癌の組織発生起源である卵巣表層上皮細胞や卵巣癌細胞のbiological behaviorに影響を与えうるかを解析することを目的とした。 不妊症治療中に認められる卵巣癌には大別して2種類のものが存在することが明らかとなった。一つは漿液性の卵巣癌または境界悪性腫瘍で臨床的には比較的突然発症することが特徴的で、経腟超音波法により丹念に卵巣を観察していても卵巣癌と判明した時点ですでに腹腔内に播種性転移が認められることが多く、現時点では早期発見することが困難である。一方、もう一つのタイプは子宮内膜症性嚢腫より発生する明細用癌ないし類内膜癌で、これらは超音波とMRIを組み合わせることにより早期に発見することが可能と考えられる。 卵巣癌の発生起源である卵巣表層上皮細胞は免疫組織学的にゴナドトロピン受容体であるLH/hCG receptorを発現し、さらに卵巣表層上皮細胞の初代培養系においてもhCGに対する特異的結合能、およびLH/hCG receptor geneのmRNA発現が認められた。この培養系にてhCGは卵巣表層上皮細胞の増殖を促進し、さらに無血清条件下で誘導されるアポトーシスを抑制することが判明した。このhCGによるアポトーシス抑制効果はhCGによるinsulin-like growth factor-1発現誘導を介することも判明した。すなわち、ゴナドトロピンは通常では排卵により破綻した卵巣表層上皮の修復に関与することが推測され、高ゴナドトロピン状態は表層上皮細胞の増殖や細胞死の異常を惹起している可能性が示唆される。 卵巣癌においてもその約半数はLH/hCG receptor mRNAを発現しこれは免疫組織学的なLH/hCG receptorの蛋白発現と一致していた。卵巣癌由来のcell lineのうちOVCAR3はLH/hCG receptor mRNA陽性であり、これを用いて検討すると、hCGは卵巣癌細胞の増殖にはほとんど影響を与えないものの、insulin-like growth factor-1発現誘導を介して、シスプラチンにて誘導されるアポトーシスを抑制する作用をもつことが判明した。このことは卵巣癌においてもゴナドトロピンがそのbiological behaviorに影響を及ぼしうること、さらに卵巣癌細胞の制癌剤抵抗性にも関与していることを示唆している。
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