研究概要 |
昨年までの本研究ではプロゲステロン依存性分子・遺伝子としてtissue TGase、TIMP-1,UK-10,CD63などをみいだし、またヒト子宮内膜細胞自体にあるプロゲステロン代謝酵素、20α-HSDの構造も初めて解明した。本年度はさらに、cDNA expression arrayによってサイトカインIL-15が子宮内膜間質細胞に発現していること、それが分泌期内膜で増強することを明らかとした。間質細胞の培養実験でもIL-15はプロゲステロンの濃度依存性に遺伝子発現が増強し、ELISAで測定した上清中IL-15濃度とも相関していた。IL-15はNK細胞の増殖と分化に関わる因子であり、子宮内膜局所において分泌期後期に出現するいわゆる子宮NK細胞(CD56強陽性の大顆粒リンパ球)の増殖や分化に関わる事が示唆される。プロゲステロン添加培養後の上清には子宮NK細胞をin vitroで増加させる効果があり、またIL-15の添加によっても子宮NK細胞は増殖することが確認された。子宮NK細胞からは、各種のサイトカインが分泌され絨毛細胞の増殖を促進することが知られており、一方ではそのNK活性によって絨毛細胞の子宮内への浸潤を制御していると推測される。着床不全が想定される女性の分泌期子宮内膜から抽出したRNAによる検討では、UK-10、IL-15のレベルが低い事が示唆されており、以前報告したLIFやM-CSFの成績と類似した結果であった。これらより、従来原因不明とされた不妊原因に一つに子宮内膜のプロゲステロン応答性の異常があり、内膜細胞及び局所免疫細胞の機能が傷害されるという病態があることがはじめて明らかとなった。
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