研究概要 |
網膜血管増殖疾患に対する遺伝子治療法開発の為、血管内皮増殖因子(VEGF)による血管新生制御機構を検討した。 網膜血管内皮細胞では血管新生調節の重要な接着因子である血管性インテグリンavb3,avb5が低酸素刺激によりVEGFを介して発現が増加し、虚血網膜でこれらのリガンドである細胞外マトリックス、トロンボスポンジン1(TSP-1)、オステオポンチン(OPN)が発現増加している事を見出した。TSP-1やOPN抗体投与が血管増殖治療法として有用である事を示した。 アンギオテンシンII(AIL)はVEGF受容体KDR/Flk-1の発現をAT1受容体を介するPKC依存性シグナル伝達により増加させVEGF依存性の虚血性網膜血管新生を増強し糖尿病網膜症を増悪させる事が見出された。ACE阻害剤やAT1受容体アンタゴニストが治療薬として有効である可能性が示唆された。さらにAIIが周皮細胞に対しVEGF遺伝子転写調節領域に結合する転写因子AP-1の活性を高めVEGF発現を増加させる事を見出した。この転写調節機構制御によりパラクラインに働くVEGFの制御の可能性が示唆される。 ヒト摘出脈絡血管増殖膜、糖尿病硬性白斑にVEGF発現があり脈絡膜血管新生や黄斑浮腫におけるVEGFの重要性を見出した。マクロファージが分泌するTNF-aやIL-1bなどのサイトカインが網膜色素上皮や血管細胞でVEGF分泌を誘導している事を明らかにし低酸素誘導が主体でない黄斑変性症などにおいてはサイトカイン誘導を阻害する治療法が有用である事が示唆された。抗アレルギー剤トラニラストがPKC依存性細胞内経路抑制を介してVEGF,低酸素が誘導する血管新生を抑制する事を見出した。既に臨床応用されている薬剤であり有効な治療薬となる可能性が示唆される。 これらの因子を制御することで網膜血管増殖疾患賂療に応用できると考えられた。
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