研究概要 |
臨床的に難治の遷延性角膜上皮欠損の多くの症例は角膜知覚が著しく低下した症例であり,角膜上皮の創傷治癒過程における知覚神経系の役割の重要性が示唆されている。本研究は,角膜上皮に対するsubstance PとIGF-1の相乗作用の作用機序を明らかにし、臨床的に現在の医学知識では難治である神経麻痺性角膜症の病態解明と新しい治療法の開発を目的とする。本年度は,下記について明らかとなった。 1)角膜器官培養系を用いて,培養液中にPKC,PKA,PKGを促進あるいは阻害する薬剤を添加してsubstance PとIGF-1により促進された家兎角膜上皮の伸長を検討したところ,PKCシグナル伝達系が主として関与していることが明らかとなった。 2)substance PおよびIGF-1によりをヒト不死化角膜上皮細胞におけるintegrin α5,β1に対するのmRNA発現が促進した。 3)substance Pを構成する11個のアミノ酸配列をもとにした各種のペプチドを家兎角膜組織培養系に添加しIGF-1との相乗作用を示す最小必須配列を検索したところ,substance PのC端の4個のアミノ酸配列(F-G-L-M)がIGF-1との相乗作用を示す最少必要アミノ酸配列であることが明らかとなった。 4)substance PおよびIGF-1の角膜上皮修復に対する効果をin vivoの系で検討したところ,substance PあるいはIGF-1単独の点眼は対象としたPBS点眼群と何ら上皮欠損修復に影響を与えなかったが,substance P+IGF-1の点眼により,有意に上皮修復は促進された。 5)substance PおよびIGF-1の添加によるMAP kinaseの変化は認めなかったが,focal adhesion kinase(FAK)のリン酸化が促進された。
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