研究概要 |
臨床的に難治の遷延性角膜上皮欠損の多くの症例は角膜知覚が著しく低下した症例であり,角膜上皮の創傷治癒過程における知覚神経系の役割の重要性が示唆されている。本研究では,角膜上皮に対するsubstance PとIGF-1の相乗作用の作用機序を明らかにし,臨床的に現在の医学知識では難治である神経麻痺性角膜症の病態解明と新しい治療法の開発を目的とした。本年度は,下記について明らかとなった。 1. IGF-1と相乗作用を示すSubstance PのC末端の4個のアミノ酸配列(FGLM)は,in vivoウサギ角膜上皮剥離モデルにおいて,それ単独では効果を示さないが,IGF-1と組み合わせて点眼することにより,角膜上皮創傷治癒を促進させることが明らかとなった。 2. FGLMおよびIGF-1を角膜上皮細胞に処理することにより,フィブロネクチン・マトリックスへの接着性が亢進し,さらにフィブロネクチン受容体(インテグリンα5β1)のタンパク質およびmRNAの発現を亢進させることが明らかとなった。 3. 学内IRBの承認を得て,FGLMおよびIGF-1を神経麻痺性角膜症の症例に対して治療,点眼することにより,遷延性角膜上皮欠損が治癒した。 平成9年度および10年度に得た研究成績をもとに,今後更にsubstance PあるいはFGLMとIGF-1の角膜上皮創傷治癒促進作用の機序を細胞内シグナル伝達系の関与を中心に解析を進めることが薬効薬理および遷延性角膜上皮欠損の病態の解明に役立つと考える。一方,臨床的にもこの新規の治療法の有用性を確立するための多数例での臨床試験が必要である。
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