研究概要 |
歯の形態形成と細胞分化は転写因子や成長因子が関与し,連続的な上皮-間葉の相互作用によって制御されている。基底膜は歯胚上皮とそれに隣接する間葉組織との間に介在する細胞外マトリックスとしてそれらの相互作用に関与していることが知られている。そこで基底膜の主要構成成分であるIV型コラーゲンに注目し,IV型コラーゲンα1からα6までの6種類のα鎖に対するモノクローナル抗体を用い,歯胚の各発生段階における基底膜IVコラーゲンα鎖の局在と消長を観察し,歯胚の形態形成,細胞分化との関連を観察した結果,以下の結論を得た。 1, 歯胚の発生段階で,基底膜IVコラーゲンα鎖の組成に違いがあり,α1鎖からα5鎖は,歯胚各上皮基底膜で時期特異的な推移のあることが示された。α6鎖は,歯胚の各発生段階で陰性を示した。 2, 上皮肥厚期,蕾状期,帽状期初期までの歯胚基底膜ではIVコラーゲンα1鎮,α2鎖以外にα3鎖,α4鎖,α5鎖が認められた。この時期の組み合わせには,恒常的構成成分である[α1(IV)]_2α2(IV)以外に,α3(IV)α4(IV)α5(IV)が存在すると考えられ,これら2通りの組み合わせからなるIV型コラーゲンは,初期歯胚の形態形成に関与している可能性が考えられた。 3, 帽状期後期から鐘状期にかけて,内エナメル上皮基底膜には,α1鎖,α2鎖のみが認められた。前者には[α1(IV)]_2 α2(IV)と,これまで報告の無いα4(IV)αx(IV)αx(IV)の組み合わせの存在が示唆され,後者には[α1(IV)]_2α2(IV)の組み合わせが存在した。従って,歯胚上皮基底膜にはα鎖の部位特異的な組成と組み合わせが存在し,特に内エナメル上皮基底膜に含まれる,α鎖の特異な組成と組み合わせのV型コラーゲンは歯胚の細胞分化に関与することが示唆された。
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