研究概要 |
歯周ポケット底部に位置するプラークフリーゾーンにおけるバイオフィルム形成細菌の同定を目的として,重度成人性歯周炎に罹患し抜去された歯を,Porphyromonas gingjvalis.Campylobacter rectusおよびActinomyces viscosusに対する特異抗体を用いた走査免疫電顕法により検索した。2次電子像観察にてプラークフリーゾーンの形態的な検索を行ったところ,細菌がわずかながら散在性に存在し,糸状菌,桿菌やスピロヘータが優位に観察された。糸状菌の菌体表層には線維性の網状構造物がみられ,その物質を介して他の細菌種と凝集していた。また,長・短桿菌の中には不定形のフィルム様構造物に被覆され凝集している小コロニーが観察された。反射電子像観察では,P.gingivalis,C.rectusおよびA.viScosusはいずれもプラークフリーゾーンにおいて検出された。P.gingivalisとA.viscosusはglycocalyx様のフィルム状外皮に被覆され検出されたが,C.rectusの菌体表層にはglycocalyx様の構造物は観察されなかった。 以上の結果をもとに,A.viscosusのin vitro系におけるバイオフィルム形成実験を行った。緑膿菌バイオフィルムの形成実験に使用されるModified Robbin's Deviceを用い,試料室内にタイプIコラーゲンコーティングプレートを置き,培養液を一定速度で環流させ3,7,14,21あるいは28日目にプレートを取り出し,走査型電子顕微鏡によりバイオフィルム形成過程を形態学的に検索した。3日目では,プレート上にA.viscosusの付着は認められたが,菌体表層にglycocalyx様の構造物はみられなかった。7日目では,散在性に増殖したA.viscosusの菌体表層にフィルム様の構造物が観察され,14日目以降では成熟したバイオフィルム形成がみとめられ,本実験がA.viscoosusによるバイオフィルム形成モデル系として利用できることが示唆された。
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