研究概要 |
フッ化物配合レジンでは,フッ化物の溶解度の大きなものほど高いフッ素徐放性を示すが,早期にフッ素を徐放し尽くし,その持続性に乏しい.そこで,フッ化物を疎水性の被膜で被覆することで,フッ化物の溶解性を抑制し,持続的徐放性を得ることを試みた.その際の疎水性の被膜形成は,NaFをシランカップリング剤であるγ-MPTSで処理することで可能であり,シラン処理の際の処理溶液のγ-MPTSの濃度は3wt%以上で,加熱処理を行うことが必要であることがわかった. シラン処理NaFのXPS分析の結果,シランカップリング剤に起因するSi 2p電子のピークが観察され,このピークはスパッタリングにより減少した.この結果から,フッ化物をシラン処理することでフッ化物はポリシロキサンの被膜で被覆されたものと考えられた.γ-MPTS濃度で処理したNaFを配合したレジンからのフッ素徐放性を測定すると,早期の徐放量は低下したものの経時的な徐放量の低下は少なくなり,7週目以降は無処理群よりも高い徐放性を示した.さらに,このように長時間持続的フッ素徐放性を示すレジンを牛歯エナメル質に充填し,その齲蝕抑制効果を検討した.顕微X線像から,フッ化物を配合していない群は高度に脱灰した層が確認されたのに対し,無処理,シラン処理群ではともにほとんど脱灰層は確認されず,多量のフッ素を徐放する無処理群とシラン処理群の脱灰抑制の程度は同等であった.これらの結果から,シラン処理群は長期間フッ素を徐放するため,無処理群に比べエナメル質が獲得した耐酸性を長期間維持できる可能性が示唆された. 以上のように,フッ化物であるNaF表面をシランカップリング剤でコーティングするという方法でマイクロカプセル化して,それらを配合することで,レジン材料に持続的フッ素徐放性を付与することができることがわかった.
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