研究概要 |
平成9年度の研究は各種修復物-歯質境界部の初期脱灰現象を経時的に定量測定することである。まず,実験方法の確立を図るため,次のような術式で行った。ヒト抜去前歯唇面エナメル質を1mm×4mm×3mmのブロックとして切り出した。1mm×4mmのエナメル質面を露出させ,樹脂包埋した直径12mm,厚さ2mmの試料体を作製し,エナメル質に隣接した窩洞を形成し,アマルガム充填した。脱灰進行状態の観察には原子間力顕微鏡を用い,コンタクトモードで容器セル内に鏡面研磨した試料体を装着し水中で観察を行った。脱灰液は0.2M酢酸緩衝液(ph=4)を用いた。エナメル質表面に脱灰液0.5mlが触れるようにし,累積浸漬時間は10分,30分,60分,90分,120分,180分,240分及び360分とした。これら脱灰液中に含まれるカルシウム濃度を原子吸光光度計を用いて測定し,各ステージにおける単位面積当たりの溶解量を求めた。 各ステージにおけるカルシウム溶解量は最終累計浸漬時間の360分後で653μg/mm^2であった。さらに原子間力顕微鏡を用いて,アマルガムと歯質境界部の立体画像と表層断面形状を読み取ることができた。脱灰進行状態の観察では,累積浸漬時間90分後よりエナメル質表層の脱灰による凹凸を検知することができた。累積浸漬時間240分及び360分後ではアパタイト結晶の凹凸も明確となり,特に境界部エナメル質のアパタイト結晶は境界部より離れた部位のアパタイト結晶に比べ,やや崩壊した像を呈していた。さらに今後,例数を増やすと共に接着性修復材を用いた場合のカルシウム溶出量の違いや修復物境界部のアパタイト結晶の構造変化を観察する。また,平成10年度ではう蝕原因細菌の修復物-エナメル質境界部への付着や境界部エナメル質の形態的変化を観察する予定である。
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