研究概要 |
平成9年度の研究で原子間力顕微鏡(AFM)を用いてアマルガム(AM)-エナメル質境界部の初期脱灰現象を観察した。平成10年度ではコンポジットレジン(CR)とグラスアイオノマーセメント(GI)を加え,形態観察とともにカルシウムの溶解量と脱灰エナメル質のカルシウム(Ca)と燐(P)の定量分析を行った。まず,ヒト抜去前歯唇面エナメル質面0.6mm×3.7mm,高さ4mmのブロックとして切り出し,エナメル質面を露出させ樹脂包埋した直径12mm,厚さ3.5mmの試料体を作製し,エナメル質に隣接した窩洞にAM,CR及びGIを業者指示に従って充填した。その後,エナメル質を鏡面研磨し,0.2M酢酸緩衝液(pH=4)0.25mlを累積時間で0,2,5,10,15,20分間脱灰させた。それぞれの脱灰時間毎に修復物-エナメル質境界部の表面性状を原子間カ顕微鏡を用い水中,コンタクトモードで観察した。脱灰2分後にCR境界部のエナメル質は脱灰された像が観察されたが,AM境界部では認められなかった。GI境界部では20分脱灰させてもエナメル質の変化は認められなかった。20分脱灰後の累積カルシウム溶出量はAM試料体が113.3μg/cm^2,CR試料体が127.5μg/cm^2であったのに対し,GI試料体は69.9μg/cm^2と低い値であった。また20分脱灰後の試料体をX線マイクロアナライザーでエナメル質表層のCaとPの定量分析を行ったところ,AMやCRの境界部ではP成分値が著しく減少し,Ca/p原子比がGI境界部と比較して増加した。以上のことからGIはAMやCRと比べ,隣接したエナメル質の脱灰を抑制し,AFMを使用した表面性状を観察することが可能となったことが分かった。さらに上記試料体にStreptococcus mutansを60分付着させ,風乾のみでAFM観察を行った。修復物によるエナメル質への細菌付着に特に差はなかった。
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