研究概要 |
高齢全部床義歯装着者における咬合回復による身体活動への影響を調べるため、テレメータ方式による歩行リズム測定器、歩行速度測定器と重心動揺計を用いて歩行分析ならびに重心動揺について計測を行い、義歯装着時と非装着時の平衡機能について検討した。義歯装着時においては、歩行周期は安定、短縮し、歩行速度、歩幅については、有意に高く、重心動揺距離は有意に減少が見られた。今回の検討により、高齢全部床義歯装着者において、義歯による適切な下顎位の保持が高齢全部床義歯装着者の歩行安定性を向上させる可能性のあることが考えられた。 一方、中枢機能への影響を調べるために、咀嚼によって起こる脳組織内へモグロビン量の変化と脳波との関連を調べた。被験者は,顎口腔領域に異常を認めない26〜32歳の男性健常有歯顎者とした。被験者を15分間安静に保ったのち 脳組織内ヘモグロビン量と脳波の測定を開始した。開始5分後よりガム咀嚼を3分間行わせ,ガム咀嚼終了5分後に計測を終了した。近赤外線酸素モニターを用いて記録された酸素化ヘモグロビン量,脱酸素化へモグロビン量,総ヘモグロビン量の定性的な変化を観察し,符号検定を用いて解析した。また脳波について,ガム咀嚼前後1分間について高速フーリエ変換にて周波数分析を行った。全ての例においてガム咀嚼開始後,酸素化ヘモグロビン量の増加,脱酸素化ヘモグロビン量の減少が認められた。一方,脳波活動は全ての例において,ガム咀嚼前と後でパワースペクトルに変化が認められなかった。これらのことから,脳内循環系はガム咀嚼終了後も変化が持続するが,ガム咀嚼による脳組織内の神経活動の亢進は,ガム咀嚼終了後ただちに消失している可能性が考えられた。
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