研究概要 |
軟骨の細胞外基質を構成するtypeIIコラーゲンの生合成過程では,まず軟骨細胞内でプロコラーゲン分子が生成される。ついで,それらプロコラーゲン分子は軟骨細胞外に分泌された後,N末端とC末端のペプチドが特異酵素により切断されてトポロコラーゲン分子が完成する。切断されたC末端ペプチドがprocollagenII C propeptide(pCol II-C)である。すなわち,滑液中のpCol II-C濃度は,II型プロコラーゲンからコラーゲンへの変換量を反映し,軟骨生成の指標となる。しかし,顎関節滑液中のPCo1 II-C濃度の測定は臨床応用されるに到っておらず,解決すべき点が多い。そこで,以下の研究デザインのもと検討した 1. ヒト顎関節滑液中のII型プロコラーゲン・プロペプチド(pCol II-C)の同定 (1) 計測1:関節円板病態によるpCol II-Cの検出率の相違 検証仮説:関節円板病態により顎関節滑液中のpCol II-Cの検出率に差がない。方法:対象は女性患者で,28関節は復位を伴わない関節円板転位,19関節は復位を伴う関節円板転位、2関節は正常であった。滑液は全て直接採取法により採取し、pCol II-Cの測定には,(株)テイジンが開発した1ステップ・サンドイッチEIA法によるコンドロカルシン・テストキットを用いた。なお,pCol II-C濃度の測定限界は0.2ng/ml未満とした。結果:復位を伴わない関節円板転位28関節では25関節に,復位を伴う関節円板転位19関節では11関節でpCol II-Cが検出され,両者の検出率に統計学的に有意の差が認められた(P<0.05)。なお、正常ではいずれも検出できなかった。 結論:顎間接滑液中のtypeII Pro-collagen C propeptide濃度は関節円板病態の相違による関節軟骨の改造機転の程度を反映していると考えられる。 (2) 計測2:滑液採取法によるpColII-Cの検出率の相違 検証仮説:滑液採取法により顎関節滑液中のpColII-C検出率に差がない。方法:対象は全て復位を伴わない関節円板転位をきたした女性患者で,34関節は原液採取法で,10関節は稀釈回収法で滑液を採取した。pCol II-Cの測定は,計測1と同様とした。結果:原液採取法を用いた34関節では29関節(85.3%)に,稀釈回収法を用いた10関節では1関節(10%)でpCol II-Cが検出され,両者の検出率に統計学的に有意の差が認められた(P<0.01)。 結論: 顎関節内障患者の顎関節滑液中のTypeII Pro-collagen C peptideを測定する場合には、原液採取法による滑液検体を使用すべきである。
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