1)上顎歯肉癌の手術施行症例における術後口腔機能の検討 1988〜1997年の10年間に当科で根治的手術を施行した上顎歯肉扁平上皮癌患者18例について術後のアンケート、山本の咬度表、およびデンタルプレスケールによる検査に基づき咀嚼機能の検討を行なった。アンケートでは咀嚼困難を自覚していた症例は、最終義歯装着14例中4例(28.5%)であった。咬度と咬合歯数との関係は咬合歯数が多いほど咬度が高かった。デンタルプレスケールで測定した平均咬合力は発症部位が前方型の症例で、手術時の切断面積が10mm_2以下の症例で高値を示した。平均咬合力と咬合歯数との間には明らかな関係は見られなかったが、総義歯装着症例の平均咬合力は低値であった。 2)口腔癌患者の手術後の咬合力、咬合バランスの変化 デンタルプレスケールを用いて口腔癌手術後の咬合力、咬合面積、咬合バランス、咬合力中心について検討した。対象症例は口腔癌29例であり、対照として歯の欠損、その他の口腔疾患のない健常人37例であった。下顎歯肉癌術後の中心咬合位での咬合面積、咬合力は健常人に比べ有意に低かった。交合バランス、咬合中心は健側に偏位していた。側方運動時の咬合面積、咬合力は有意に低かった。残存歯数により咬合面積、咬合力は大きく影響を受けた。舌癌術後の中心咬合位での咬合面積は下顎歯肉癌のそれより高かったが、健常人に比べ有意に低かった。咬合バランスの変化は少なかった。上顎歯肉癌術後の中心咬合位での咬合面積、咬合力は最も低かった。以上のように、1.咬合面積、咬合力について口腔癌手術後患者は健常人に比べ有意に低かった。平均咬合圧は有意の差がなかった。咬合バランスは口腔癌手術後患者で有意に左右差があった。 3)口腔癌の組織学的悪性度 上記のとおり口腔癌の切除範囲は咀嚼力、咬合力に著しく影響を与えるが、組織学的悪性度(分化度、異型性、核分裂数、浸潤様式、リンパ球浸潤)の高い症例は原発巣再発の頻度が高く、大きな切除面積が必要と思われた。
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