研究概要 |
口腔癌の転移機序をO-1N細胞・腫瘍組織およびヒト口腔癌を用いて研究し、以下の結果を得た。 1.脈管侵襲の検索。光顕・電顕観察では、O-1Nの腫瘍組織移植と同様、O-1N由来高転移、低転移細胞株の頬嚢移植でも胞巣ごとリンパ管に侵入、転移をきたす様子が観察された。ヒト口腔癌についてもリンパ管侵襲、血管侵襲いずれもO-1Nにおける所見と同様な所見が観察された。 2.接着因子発現の検索。E-カドヘリン、α-、β-カテニン、α6インテグリン、ラミニンの発現は高転移株、低転移株いずれにも認められた。O-1Nの移植部では、浸潤先端ではこれらの因子の発現は低下するが、脈管侵襲部では、発現の低下は見られず、その発現低下が直接転移に関与する事を支持する所見は見られなかった。 3.微小転移の検索。ヒトサイトケラチン19mRNA塩基配列をもとに作ったプライマーにてRT-PCRをおこない、O-1Nサイトケラチン19の増幅、検出に成功し、O-1Nでのリンパ節、肺転移過程における血中癌細胞の変化を観察し、本法の微小転移予測の有用性を示唆する知見を得た。 4.MMP,TIMP発現の検索。O-1N高転移株でのMMP3とMMP9活性は低転移株に比して非常に強く、RT-PCRの結果では、MMP2,3,TIMP1,2 mRNAは腫瘍組織、高転移株で発現していた。転移リンパ節腫瘍ではMMP9の強い活性が見られたが、TIMP1,2活性は頬嚢、リンパ節腫瘍では陰性か低下していた。しかし転移と関連づける明確な証拠は得られなかった。なお、高転移株へのTIMP遺伝子導入による転移能の変化については結果は得られなかった。 5.血管新生抑制と転移の検索。血管新生抑制剤TNP-470を用いて、その転移に及ぼす影響につき検討したが、まだ充分な結果は得られていない。 6.以上の結果より、口腔癌の転移機序は従来の説とは異なる可能性が示唆された。
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