研究概要 |
我々は、唾液腺腫瘍の悪性転換に伴いfibroblast growth factor(FGF)-2の過剰発現とFGF-2をリガンドするFGFR1-(IIIc)遺伝子が発現してくること,一方,keratinocyte growth factor受容体遺伝子(KGFR/FGFR2-(IIIb)の発現は消失することを明らかにしてきた。また、唾液腺由来腺癌細胞HSYにドミナントネガティブFGFR1-(IIIc)遺伝子を導入することにより同細胞のin vitroおよびin vivoにおける増殖が抑制されることを報告した。これらの事実は,FGF-2-FGFR1系シグナルがヒト唾液腺腫瘍の悪性化に深く関与していること,さらに,KGF-KGFR/FGFR2-(IIIb)系シグナルは唾液腺上皮の分化の維持に重要な働きをしていることを示唆している。 本研究年度では,唾液腺由来腺癌細胞HSYに野生型wild type(wt)KGFR/FGFR2-(IIIb)遺伝子を導入することにより,in vitroおよびin vivoにおいて唾液腺癌細胞の分化を誘導する,唾液腺癌の分化誘導遺伝子療法を目指した。 [材料と方法]wt KGFR遺伝子をpcDNA/zeo mammalian expression vectorを用いて,唾液腺由来腺癌細胞HSYに遺伝子導入しzeocin耐性細胞を分離した。次に,^<125>I-KGFを用いた受容体結合試験によりwt KGFR遺伝子高発現細胞をクローニングし,wtKGFR過剰発現HSY細胞(wtKGFR-HSY)を得た。同細胞の無血清培養系での増殖能,FGF-1,FGF-2およびKGFに対する反応性,ヌードマウス背部皮下における造腫瘍性について検討した。対照として,pcDNA/zeo vectorのみを導入したzeocin耐性HSYを用いた。 [結果と考察]wtKGFR-HSYを7クローン得た。いずれのクローンもインスリン,トランスフェリンを含む無血清培地では増殖することが出来なかった。しかし,対照のzeocin耐性HSY細胞は同無血清培地中でも増殖することが可能であった。また,wtKGFR-HSYの増殖はFGF-1により促進されたが,FGF-2およびKGFに対する反応性は示さなかった。いずれのクローンもヌードマウス背部皮下における造腫瘍性は対照と比較して低下していた。 以上の結果から,野生型KGF受容体遺伝子を用いたヒト悪性唾液腺腫瘍の遺伝子治療の可能性が強く示唆された。今後,ex vivoの系で検討を行う予定である。
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