研究概要 |
口腔扁平上皮癌の増殖能とp53経路との関連では、p53非依存性にp21の発現を制御する系の存在も推定された。口腔白板症の悪性化や口腔扁平上皮癌細胞のp53に対するp14とmdm2の関係は,細胞や組織の悪性化につれてp14ARFの発現が低下するため,p53-ARF経路に異常が生じることが増殖機序の一因の可能性であると推定された。また、Osteopontinの発現は、口腔癌での悪性形質の獲得と、CD44との結合による遠隔転移にも関与する可能性が示唆された。さらに、口腔癌抑制遺伝子FHITの異常の有無を検索し、口腔癌細胞では、異常転写産物や完全欠失が高頻度に認められ、口腔癌組織でも約50%の例でLOHが認められた。一方、Rb経路と癌化の関係は、p16の発現はRbにより制御されるとともに、p16の欠失、Cyclin Dの過剰発現およびRbのリン酸化などが、同一機構で口腔癌の発生に関与することを示唆した。また、ヒト消化器系の発生腫瘍の病理組織型との関係は、口腔癌と胃癌におけるcyclin E,Dの遺伝子変化とその発現差異がみられ,これら遺伝子の関与状態に相違のあることが推定された。口腔腫瘍の中で特異的な組織像を示す唾液腺腫瘍では、p53、p21とcyclin E,Dの発現様相から他臓器の腺癌の構成細胞とは増殖機序に違いのあること、さらに腺上皮と筋上皮のそれぞれに関与する部位の構成細胞に増殖機序に差異のあることが強く推定された。さらに、RES系腫瘍のB細胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)ではp53の発現と化学療法との間に相関性が見られ、p53の異常は治療学的予後を示唆するマーカーになり得る可能性が推定された。 以上から、口腔癌の発生・増殖には、RB経路とp53経路の関与が示され、発生癌の組織型により,2つの経路の関与状態に相違のあることが推定された。
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