研究概要 |
近年、噛むことと全身の健康との関係に大きな関心が寄せられ、噛むという動作の代表である咀嚼運動が、全身骨格ならびに中枢神経系の発達と維持に及ぼす影響を明らかにすることは人類の福祉、健康増進の観点よりきわめて意義深い。そこで,本年度は大理石骨病マウスにおけるM-CSFの投与により引き起こされる口腔内環境の変化が,顎顔面頭蓋骨格,全身の長管骨、咬筋筋活動ならびに中枢神経系に与える影響について検討した。ヒトを対象として,側面頭部X線規格写真,ホルター型筋電図測定システムを用いて骨格形態ならびに筋機能の変化の解明に努めた。 その結果、M-CSFの投与が先天的に欠損していた破骨細胞活性を賦活し、正常マウスにおける骨形態ならびに骨内構造を回復させることが明らかとなった。また、このような変化を促進する因子として、正常な咀嚼機能の回復とこれに起因した適正な機械的負荷の作用が特筆された。さらに、これらの変化を修飾する因子として性ホルモンの関与が挙げられ、全身骨格の構造決定に大きな役割を果たしていることが強く示唆された。 一方、咀嚼機能による機械的負荷と頭蓋形態、中枢神経細胞の発達に関しては、適正な負荷が頭蓋顔面骨格の縫合成長を介して頭蓋骨格の形態形成に大きな影響を及ぼすこと、ならびに三叉神経節をはじめとした神経節のニューロン数や神経細胞数が食餌の硬軟に応じた咀嚼機能の変化とこれに起因した機械的刺激の程度により変化することが明らかとなった。なお、ヒト顎変形症患者における咀嚼筋活動の様相をホルター型筋電計により既に解析したが、中枢系の形態、機能との関連については、次年度に評価、検討する予定である。 以上の結果を総括すると、咀嚼という日常不可欠な機能が頭蓋領域の硬軟両組織の正常な機能獲得や形態形成に強く関与していることが示唆され、よって咀嚼機能の全身健康への影響力の大きさが推し量られた。
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