本年度の研究では下記の2つの方法を駆使することで、S.mutansに感染するバクテリオファージの分離を試みた。まず、唾液中からのバクテリオファージの分離を目的として齲蝕感染経験の少ない者から唾液を採取し、これをS.mutansの培養液に加えて培養して、バクテリオファージの増殖を試みた。なお、ファージが溶原性ファージであることを考慮して、S.mutansの培養に際しては、紫外線照射あるはマイトマイシンC処理を行った。これまでに100名程度の被験者から唾液を採取し、ファージの分離を試みたが、現在のところバクテリオファージの分離には至っていない。これと同時にS.pyogenesの染色体遺伝子データベースからバクテリオファージ遺伝子と相同性を示す遺伝子の検索を行い、これらの相同遺伝子をプローブとして、バクテリオファージが既に感染しているS.mutansの分離を試みた。つまり、口腔内から様々な菌株のs.mutans種を分離して、これらの染色体遺伝子を調製し、先に作成したプローブを用いてサザンハイブリダイゼーショウンを行うことで、既に溶原化ファージが感染しているs.mutansの特定を行った。現在のところ、10株の溶原化ファージに感染しているs.mutansが分離されたが、紫外線照射あるはマイトマイシンC処理を行っても、培養上清中へのバクテリオファージの形成を誘導させることができなかった。今後は、バクテリオファージの誘導条件に工夫を加えて、これらの溶原化ファージに感染しているS.mutans株からバクテリオファージを効率良く誘導する条件を決定する。 また、アンチセンスRNAを充分量発現させるために、発現効率の高いプロモーターの開発を進めているが、これまでの調べてきた遺伝子の中では、gtfB遺伝子のプロモータが最も発現効率が高いことが確認されている。さらに、この発現効率はTween80の添加によって大きく誘導を受けることが明らかにされており、現在この誘導機構の解明を進めている。
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