1)ファージの誘導条件の検討 昨年度の研究で溶原化ファージが既に感染しているStreptococcus mutansをサザンブロット分析で特定したところ、溶原化ファージが感染していると思われる10株のS.mutansが認められた。これらの菌株について、紫外線照射あるいはマイトマイシンC処理を行っても、培養上清中へのバクテリオファージを誘導することができなっかたので、バクテリオファージを誘導する際に、過去にランダプロファージの放出を誘導することが報告されているK_2CrO_4、Pb(NO_3)_2、MnCl_2、Ni(OOCCH_3)_2、CrCl_2、NaWO_4、Na_2MoO_4、KMnO_4などの金属を加えて、誘導条件の検討を行った。しかし、これまでの条件ではS.mutans株からバクテリオファージを効率よく誘導することはできなかった。 2)Tween 80によるgtfB遺伝子の発現誘導機構の解明 アンチセンスRNAを充分な量発現させるために、発現効率の高いプロモーターの開発が必要である。これまで研究で、S.mutansの遺伝子のプロモータの中では、gtfB遺伝子のプロモータが最も発現効率が高く、この発現効率はTween 80の添加によってさらに大きく活性化することを明らかにしてきた。本年度はこの誘導機構の解明を行った。まず、ビオチン化したgtfB遺伝子のプロモータ上流部の遺伝子をPCRによって増幅して、これをBIA Coreのセンサーチップに固定した。ついで、S.mutansをTween 80で誘導した場合としない場合の菌体破砕物を調製し、これらの破砕物中にgtfB遺伝子のプロモータ上流部と相互作用を示す物質が存在しているかどうかを調べた。この結果、Tween 80で誘導した場合に有意に高い結合活性が認められたことから、Tween 80によってgtfB遺伝子のプロモータ上流部に結合して同遺伝子の転写を活性化する物質が誘導されることが明らかとなった。
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