研究概要 |
口唇裂口蓋裂患者における鼻上顎複合体の形態的な変異は極めて多様性を示し,また,治療術式における上顎骨への影響や治療効果を力学的に解析した例が少ないことから,臨床上の個々の症例において劣成長や狭窄の程度を熟慮したうえでその治療時期,方法,期間を決定することは困難である。そこで本研究では,上顎の形態的な変異をより正確に把握するとともに骨の物理的性状を計測して有限要素モデルを作成し,個々の患者に対応した的確な治療方針の決定を可能にするシステムを構築することを目的とした。 具体的には,X線CT撮影から得られた画像データを三次元CADワークステーション内でボクセル(Voxel)法によって再構築し,三次元的な骨形態ならびに骨密度の分布を解析する。また,構築画像から咀嚼筋の付着部位および牽引方向を決定した。さらに,口蓋部の瘢痕組織の厚さおよび硬さを超音波診断法にて計測する。次にこれらのデータから有限要素解析法を用いて鼻上顎複合体のバイオメカニカル(生体力学的)な評価をおこない,各種治療法の決定や効果の検討に応用することとした。本年度は以下の研究がなされた。 1. 資料採得 1) 口唇裂口蓋裂患者42名においてX線CT撮影をおこなった。 下顎から鼻上顎複合体全域を断層厚2mmでスキャン 2) 断層画像の三次元再構築をおこない,硬口蓋組織量などの三次元形態計測をおこなった。 3) 鼻上顎複合体における骨密度の解析をおこない,高い骨密度域の三次元的な分布を観察した。 4) 超音波診断装置による口蓋粘膜,瘢痕組織の物理性状の計測をおこなった。 2. 有限要素モデルの作成 1) 三次元形態計測の結果をもとに有限要素モデルの外形を決定,要素分割をおこなった。 2) 咀嚼筋の活性,付着部位,牽引方向などから上記モデルにおける拘束・荷重条件を設定した。 3) 口蓋裂症例の有限要素モデルをCT画像から作成した。
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