研究概要 |
薬物による肝毒性発現要因として、本研究では薬物動態に起因した酸化的ストレスと薬物の活性代謝物のタンパク質との共有結合について検討する。実験動物としてラットを用い、肝ミクロゾームおよび遊離肝細胞にて以下のような研究成果を得た。 I.薬物肝内動態と酸化ストレス:非ステロイド系抗炎症薬としてサリチル酸を取り上げ、サリチル酸の肝障害発現因子を調べた。サリチル酸を肝ミクロゾームと反応させると、NADPH存在下でサリチル酸濃度依存的、反応時間依存的にチオバルビツール酸反応物質(TBARS)が生成し、これは酸化代謝物生成の経時変化と類似した挙動を示し、さらに化学発光を測定するとこの系から極微弱化学発光が観測された。この脂質過酸化はシトクロムP450阻害剤であるSKF-525Aおよびシメチジンによって抑制された。またこの化学発光は1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンの添加により一過性の増加を示し、さらに発光スペクトルから一重項酸素の発生が示された。遊離肝細胞系でもサリチル酸はTBARS、化学発光を生成し、細胞内還元型グルタチオンの低下、LDHの漏出を引き起こした。これらは抗酸化剤により抑制された。以上の結果はサリチル酸に肝細胞障害には酸化代謝過程での酸化的ストレスが関与していることを示唆している。 II.薬物肝内動態と活性代謝物:ジヒドララジンを用いて肝ミクロゾームにおける薬物代謝酵素の不活性化を調べた。この薬物はCYP1A2酵素により代謝的活性化を受け、同酵素に共有結合をすることが知られているが、同酵素を不活性化することを示し、さらにCYP2C酵素をも標的として共有結合し、CYP2C酵素を不活性化することを明らかにした。ジヒドララジンによる酵素の不活性化が肝細胞障害につながる可能性を示唆する。
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