Max蛋白質はがん原遺伝子産物であるc-Mycと結合したヘテロ2量体あるいは自己会合したホモ2量体を形成してDNAと結合し、c-Mycの働きを制御している。我々は、Max及びそのDNA結合ドメインの蛋白質(2種類)を遺伝子工学的に大量生産する系を確立し、それらの構造及び性質を調べた。その結果、Max蛋白質は水溶液中で、単量体と2量体の平衡状態にあり、高濃度あるいは低温において2量体が増加し、これと同時にα-ヘリックス含量が増加することを明らかにした。Max蛋白質に特異的認識塩基配列をもつ2重鎖DNAオリゴマーを加えていくと、DNA濃度とともにα-ヘリックス含量がさらに増加した。認識配列中央部の2塩基配列を変えたDNAではα-ヘリックス含量増加の程度は低く、高温で非常に高い塩基配列認識特異性が観察された。Maxの生物活性はN末端領域にある2個のセリン残基のリン酸化により制御されている。Maxのリン酸化体の類似体としてセリンをアスパラギン酸に変換した変異蛋白質を遺伝子工学的に調製し、DNA結合能を調べた。変異体タンパク質のα-ヘリックス含量は低下していた。DNAを添加するとα-ヘリックス含量は増加するが、野生型の場合と比較すると、増加の程度は低かった。DNAとの複合体の熱安定性も低下しており、低下の程度はアスパラギン酸残基の数が2個の場合に最も大きかった。さらに、遺伝子工学的に調製したN末端領域を欠くMaxのDNA結合ドメインと、化学的に合成したリン酸化されたN末端ペプチドとの縮合反応により、Maxのリン酸化体を合成する方法を開発した。
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