1989年我々はアストロサイト由来の細胞株である1321N1ヒトアストロサイトーマ細胞にトロンボキサンA_2(TXA_2)受容体が存在することをはじめて見い出し、その細胞情報伝達系について検討を加えたところ、百日咳毒素非感受性のG蛋白質であるG_qの介在、さらにホスホリパーゼC-β(PLC-β)によるCa^<2+>動員性セカンドメッセンジャーであるイノシトール三リン酸(IP_3)の生成を明らかにしてきた。アストロサイトに加えて血小板および血管のTXA_2受容体刺激による情報伝達の解析から、TXA_2受容体刺激によって活性化される情報伝達系にはG_q/PLC-β/IP_3/Ca^<2+>系以外の伝達系が作動していることを早くから提唱してきた。そこで本研究では、TXA_2受容体刺激による新しい情報伝達系を明らかにすべく、アストロサイトーマ細胞、血小板および血管の反応を比較検討した。その結果、TXA_2受容体はG_q以外にG_<12>と共役し、その刺激はジアシルグリセロールを生成するホスファチジルコリン特異的ホスホリパーゼCを活性化させるとともにmitogen-activated protein kinase(MAPK)を活性化することを明らかにした。なお、ヒトアストロサイトーマ細胞には、胎盤型および内皮細胞型の2つのTXA_2受容体のaltenative splicing産物mRNAが存在することもRT-PCR法で確認した。ジブチリルサイクリックAMPで分化させたアストロサイトーマ細胞においては、Gqを介するシグナルの減弱が認められたが、逆にMAPKが活性化されていることを見い出した。そのMAPKの上流にはホスファチジルコリン特異的ホスホリパーゼCが存在するものと推定される。以上のように本研究によってTXA_2受容体を介する新しい情報伝達系の一部が明らかにされた。
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