研究概要 |
本研究では、コレステロールおよびビタミンEの細胞内輸送の全体像を分子レベルで明らかにすることが目的である。我々はビタミンE輸送タンパク質(αTTP)が細胞内でコレステロール輸送、代謝系とクロストークしている可能性を細胞生物学的に見いだしていた。本年度はαTTPがコレステロール生合成系に及ぼす影響いついて検討したところ、αTTPを培養細胞に強制的に発現するとコレステロール生合成に変化を生じ、通常は細胞内で一過性に生成するコレステロール生合成前駆体の一つスクアレン2,3-オキシドが培地中へ放出されることを見いだした。細胞内のα-トコフェロールもαTTP依存的に細胞外へ放出されることから、スクアレン2,3-オキシドがαTTPの第2のリガンドである可能性が考えられ、実際にαTTPがスクアレン2,3-オキシドと直接結合することを明らかにした。すなわち、αTTPはそのリガンドを積極的に細胞外へ放出するというユニークな活性をもつことが分かった。一方本年度初頭にTangier病というコレステロール代謝異常症の原因遺伝子がATP依存的膜輸送担体おして知られるABCトランスポーターであることが報告された。この遺伝病では高密度リポタンパク質(HDL)依存的なコレステロールの細胞外への放出機構に欠損があり、結果的にHDL欠損および組織にコレステロールが蓄積し機能障害を起こす。我々はαTTP依存的なα-トコフェロールおよびスクアレン2,3-オキシドの細胞外への放出がABCトランスポーターと機能的にカップリングしている可能性を阻害剤を用いた実験から見だした。今後さらにABCトランスポーターを中心とした細胞内からの脂質搬出機構の解析がαTTPを手がかりとして進むことが期待される。
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