研究概要 |
本研究は代表的なサイトII薬物,アリルプロピオン酸系薬物の中から,高い光反応性を示すベンゾフェノン基を有するケトプロフェン(KP)に着目し,光アフィニティラベル法によるHSA分子上のKP結合部位の検索を行うとともに,HSAのX線結晶構造解析データに基づき,効率的なマッピング作成を試みた.以下に得られた知見を要約する. 1) ラベル化HSAを臭化シアンで分解し,電気泳動を行い,ラジオルミノグラフィーで解析したところ,9.4kDaと11.6kDaの二つのラベルペプチドが検出された.そこで,11.6KDaのペプチドを分解,逆相HPLCで精製後,シークエンス解析した結果,11.6kDaのペプチドの一次配列は476から499を含んでいることが明らかになった.すなわち,サブドメインIIIAの中のヘリックス4から9までがKPの高親和性結合部位であることが示された. 2) 最近報告されたミリスチン酸-HSA複合体のX線結晶構造のコンピュータグラフィックモデルに基づきKPのミクロ環境解析を行った結果,KP分子はフェニル基などの疎水部分をヘリックス2,3,4,6から成る疎水ポケットに挿入し,カルボキシル基をポケット入口に位置するArg-410あるいはTyr-411と相互作用させているものと推論された.また,ラベル化部位がこれらのポケットの一部を成していることが明らかとなった. 3) サイトIIマーカーであるミリスチン酸存在下,ラベル化を行った結果,11.6kDaのペプチド放射活性は消失あるいは著しく減少し,一方,9.4kDaのペプチド放射活性は有意に増大した.同様な検討を限外ろ過法により試みたところ,低濃度阻害剤ではKPの遊離濃度は変化しないが,高濃度阻害剤(阻害剤/HSA>3)により,有意な遊離KP濃度の上昇が認められた.これらの結果より,KPは併用薬により高親和性結合部位から低親和性結合部位に移行するという,いわゆるサイト-サイト移行現象が惹起されているものと考えられた. 以上、HSA上のKP結合部位のミクロ環境を効率的に解析するとともに,結合部位間での相互作用についても実証することができた.
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