研究概要 |
我々はポジトロン断層法(PET)を用いて癌転移の初期過程を非侵襲的に解析できる系を開発し、これまでに転移性がん細胞の組織集積性と転移能が、ある程度相関することを見いだした。本研究ではがん転移に及ぼすセレクチンやインテグリンの関与を明らかにしてきたが、本年度は癌転移の初期における宿主側の免疫監視機構について検討した。癌転移初期において、宿主側の免疫監視機構は転移を抑えるために重要である。我々は実験転移モデルを用いて転移性がん細胞の細胞数の変化、あるいは宿主側の免疫担当細胞の枯渇等により転移形成能がどう変化するかを検討した。肝転移性リンパ腫と肺転移性黒色腫を、それぞれマウスの門脈及び尾静脈に10^6,10^5,10^4cells投与し、一定期間後に臓器を摘出し転移能を評価した。また同細胞数による転移性癌細胞の初期生態内動態はPET解析により行った。実験的がん転移の系ではある程度の細胞数を必要とし、転移の形成がみとめられない10^4cellsの投与時には、標的臓器での速やかな集積の減少が観察され、転移巣形成能と初期集積との間に相関性が見られた。これは転移性癌細胞が少量の時には免疫系により排除されるため、転移が起こりにくくなると考えると説明がつく。そこで免疫担当細胞を枯渇させた後に、転移が起こらない細胞数を投与し、転移能と初期動態を解析した。マクロファージを予め枯渇させた状態では、10^4cells投与群においても転移巣を形成し、同様な条件によるPET解析では初期集積の減少はコントロールと比較して緩やかであった。以上のことから、宿主側の免疫担当細胞による生体防御系のうち、少なくともマクロファージが転移初期から重要な役割を担っていることが示唆された。
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