研究概要 |
癌転移初期機構の解明のために、ポジトロン断層法(PET)を用いて癌転移の初期過程を非侵襲的に解析できる系を開発し、これまでに転移性癌細胞の組織集積性と転移能との相関性などを見いだしてきた。本研究では第1に、癌細胞のシアリダ-ゼ処理やシアリル糖鎖のFACS解析を通して、癌細胞初期接着に対する接着分子セレクチンの役割について一部解明した。またセレクチンリガンドとして働くと考えられるスルファチドにより、癌転移の抑制が見出された。第2に、強固な接着と浸潤に関与する接着分子インテグリンに関して、種々のインテグリントランスフェクタントを用いて検討した。実験にはCHO細胞の各種インテグリンα鎖遺伝子(α2,α3,α4,α6,α9,αV)導入株を用いた。PET解析によりインテグリンαVβ1やα4β1発現細胞の集積性の向上などを見出した。さらにインテグリンαVβ3の肝転移性への関わりについて有益な知見を得た。第3に、癌転移の初期における宿主側の免疫監視機構について知見を得た。癌転移初期において、宿主側の免疫監視機構は転移を抑えるために重要である。我々は実験転移モデルを用いて転移性癌細胞の細胞数の変化、あるいは宿主側の免疫担当細胞の枯渇等により転移形成能がどう変化するかを検討した。実験的癌転移の系ではある程度の細胞数を必要とし、転移の形成がみとめられない少量の細胞数の投与時には、標的臓器での速やかな集積の減少が観察され、転移巣形成能と初期集積との間に相関性が見られた。免疫担当細胞を枯渇させた後に、転移が起こらない細胞数を投与し、転移能と初期動態を解析したところ、マクロファージを予め枯渇させた状態では、少量の細部でも転移巣を形成し、標的組織での細胞集積の低下も抑えられた。このことから宿主側の免疫担当細胞による生体防御系のうち、少なくともマクロファージが転移初期から重要な役割を担っていることが示唆された。
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