研究概要 |
ウィルソン病は肝臓中に異常蓄積する銅による先天的銅代謝異常症で、銅はメタロチオネイン(MT)に捕捉されたCu,Zn-MTとして蓄積する。MTの合成限界まで蓄積するとCu-MTとなり、これがプロオキシダントとして肝炎を発症させる。この機構を肝臓、血流、腎臓および尿中の銅の存在形態の変化を解明し、それと関連づけて説明した。 ウィルソン病の治療には肝臓に蓄積し続ける銅の濃度を下げる必要があるが、その方法としてi)銅濃度の低い飲食物を摂取する、ii)腸管における銅の吸収を下げる、iii)肝臓に蓄積した銅を除去する、という3つの可能性がある。本研究においては、iii)による銅の除去法を開発することを目的とした。銅、モリブデンとイオウが安定な錯体を形成することを利用して、テトラチオモリブデート(TTM)による銅の除去法をその反応機構に基づいて実用化することを意図した実験を行なった。TTMによるCu,Zn-MT / Cu-MTからの銅の除去機構を錯体形成反応により説明した。また、TTMは多種類の金属イオンの存在下でも銅に対する選択性が際立っていること、さらに銅の中でも遊離の銅とMTに結合した銅に選択性を示し、銅酵素から銅を除去しないという選択性も示すことを明らかにした。 動物実験により上記の反応機構を確認するとともに、銅の体内への再分布が無いこと、および肝細胞からはCu/TTM錯体として胆汁と血流に排出され、体外へは糞として排泄され尿中へは排泄されないことを示した。 TTMの過剰投与は重篤な副作用として銅欠乏をもたらす一方、TTMは酸性条件下で加水分解され、サルファイドイオンを発生し、軽度ではあるが急性の肝障害をもたらす。銅の蓄積量にあわせてTTMを単あるいは複数回投与し、連続投与による銅欠乏および過剰投与による肝炎の発症を避けることが最適使用法であることを示した。
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