研究概要 |
【目的】透析医療は腎不全に対する医療として定着しているが、最近は患者の高齢化、合併症の複雑化などの新たな課題に直面している。また、医療財源の逼迫という経済環境にあって、年間1兆円と推計される人工透析に投じられる医療費について適正化対策が求められている。そこで、国により実施割合に大差のある血液透析と腹膜透析の優劣をQOLと経済の側面から比較検討するとともに、血液透析と腹膜透析の選択基準を明らかにする。 【対象と方法】地域の基幹病院2施設の血液透析50名、腹膜透析8名の患者のQOL等を約8ヶ月追跡するとともにレセプトデータを累積した。QOL調査は横断的調査に加え、健康状態の変化を、患者、家族、医療者の3者からLinear analog scaleで把握した。そして、血液透析、腹膜透析の優劣を、QOLと経済の両面から比較検討した。 【結果と考察】血液透析患者の健康状態の自己評価は、患者による個人差は大きいが、時期による差は小さいことが判明した。血液透析患者40名の約8ヶ月の健康状態のスコア(0最悪-100最良)の平均は、透析直前70.3±17.6、透析直後60.2±21.2である。看護婦からみた患者の健康状態は、同じく72.6±10.3、66.4±13.1であり、自己評価に近い値となっている。腹膜透析の患者7名の約1月間の健康状態を毎日調査した結果では、患者本人によるスコアは67.3±15.7、透析介助にあたる家族からみたスコアは71.1±13.2である。血液透析患者の医療費(保険点数)は、363件の月平均で、45,497.4±10,008.1である(変動係数0.220)。QOLの横断調査でみた体重の自己管理で、「うまくいっている」の割合は、血液透析68.4%、腹膜透析85.7%であるが、両者は有意の差ではない。仕事や日常生活での不安は、両者とも多く、「ある」「少しある」を合わせると各63.6%、62.5%である。
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