beta-cateninはカドヘリン結合タンパク質であり、Wntシグナル伝達系の構成成分としても機能していることが近年明らかになった。大腸癌などでNPCの変異やbeta-cateninのAPC結合部位の変異が高頻度に生じることが知られており、これらの場合、APCを介した分解作用を受けないためにbeta-cateninが遊離型として細胞質に蓄積し、このことが細胞の癌化を引き起こすと考えられている。今回、我々は乳癌において細胞中にbeta-cateninタンパク質が蓄積している可能性について検討を行った。50例の乳癌からタンパク質を調製し、抗beta-catenin抗体によるWestern blot解析を行ったが、beta-cateninタンパク質の大きさ、発現量において有意な変化を示す症例は認められず、beta-cateninのDNA1次構造上の変化も認められなかった。APCと同様にbeta-cateninを制御するGSK-3betaのDNA1次構造の変化をスクリーニングしたが一例に48塩基の挿入がみとめられたが変異の頻度は極めて低く、乳癌発生においてbeta-cateninは重要な役割を果していないことが示唆された。 乳癌は浸潤性の低いものから劇的な経過をとるものがあり、これらは遺伝子変化の相違によって引き起こされると考えられる。そこで癌抑制遺伝子が存在すると予想される染色体部位のLOHを指標として乳癌患者の予後予測の可能性を検討した。264例の術後乳癌患者においてLOHと予後との相関を解析したしたところ、BRCA1、BRCA2、1p34、17P13.3の染色体部位でLOHを示す症例は5年生存率では明らかに低く、複数のLOHを組み合わせて検討するとその差は増大することが明らかになった。
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