研究概要 |
乳癌の早期診断、治療法の選択や予後予測などのために遺伝子診断を臨床に応用するには、新たな遺伝子を同定するとともにその関与が判明している遺伝子を詳細に解析することが重要である。そこで、乳癌組織を集積し候補遺伝子変異を解析した。H-カドヘリンは16q24に位置し乳癌の約50%に染色体欠失が認められ、癌抑制遺伝子候補である。発現は検索した乳癌の80-90%で低下していたが、遺伝子変異は欠失を1例に認めただけで、乳癌の発生においてH-カドヘリン遺伝子変異は主たる原因でないこと、その発現低下は他の遺伝子異常の結果であることなどが推測された。 TSG101は11p15に存在し乳癌で遺伝子内の欠失を認めたと報告されたが、乳癌48例の検討では報告された欠失は認められず、さらに詳細な解析を進めている。 β-cateninは大腸癌などで分解機構から逃れ癌化を引き起こすと考えられている。乳癌でβ-cateninが蓄積している可能性をWestern blot法により検討したが、タンパクの大きさ、発現量において有意な変化を示す症例は認めず、β-cateninの1次構造上の変化も認められなかった。β-cateninを制御するGSK-3βの遺伝子変化も1例に48塩基の挿入を認めたのみで、乳癌発生においてβ-cateninは重要な役割を果していないことが示唆された。乳癌の個性の診断のため、癌抑制遺伝子が存在すると予想される染色体部位のLOHを指標として予後予測の可能性を検討した。264例の術後乳癌患者においてLOHと予後との相関を解析したしたところ、BRCA1,BRCA2、1p34、17p13.3の染色体部位でLOHを示す症例は5年生存率では有意に低く、複数のLOHを組み合わせて検討するとその差は増大することを明らかした。 これまでの解析ではヒト乳癌発生に強く関与する新たな遺伝子同定には至っていないが、このようなアプローチでの研究が新しい遺伝子、あるいは既知遺伝子の新しい機能の同定には必須であり精力的に進めていく予定である。
|