研究概要 |
本研究の目的は,呼吸器系の生体防御機構,並びにその破綻に基づく病態を分子薬理学的に解明することである.上部気道の防御機構に関しては,咳反射機構を調節する咳中枢の神経ネットワークをスライスパッチクランプ法及びホールセルパッチクランプ法を用いて解明することを目的とした.その結果,延髄の弧束を刺激し弧束核のシナプス電流を記録したところ,グリシン作動性神経が存在し,その興奮を鎮咳薬が抑制した.さらに,ホールセルパッチクランプ法により,モルフィナン骨格をもつ化合物がグリシン誘発電流を増強あるいは抑制することがわかった.上部および中部気道の防御機構に関しては,上皮細胞の分化に関わる調節因子を分子生物学的手法を用いて検討した.その結果,新しく見い出した転写制御因子であるMEFはヒト気道において漿液細胞が存在する粘膜下腺に発現していること,MEFはlysozyme遺伝子の転写を特異的に活性化すること,さらに,MEFを安定発現させたガン細胞が漿液細胞様の形態を示すことがわかった.さらに,この細胞において,GM-CSFの発現が抑制されており肺胞タンパク症との関連が示唆された.下部気道の防御機構に関しては,肺サーファクタントの産生細胞である肺胞II型上皮細胞に心筋型ryanodine受容体が存在し,細胞内カルシウムイオンの動態に重要な役割を果たしていることがわかった.この知見は新規サーファクタント分泌促進薬の開発に寄与するであろう.
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