本研究の目的は、臓器障害を細胞増殖と形質変換、その結果としてのリモデリングとして捕らえ、心筋細胞、血管平滑筋細胞、腎メサンギウム細胞の増殖性変化と形質変換の成立機序に関わる細胞内シグナル伝達機構を分子生物学的手法を用いて解明することである。個体レベルでのiv vivoのモデルとして、アンジオテンシンII注入モデルと自然発症高血圧ラットを使用し、MAPキナーゼファミリーに属するextracellular signal-regulated kinase(ERK)及びc-jun amino-terminal kinase(JNK)の2種類のキナーゼを介するシグナル伝達を調べた。 (1)アンジオテンシンII注入モデル 急性実験:アンジオテンシンIIの高用量(約50mmHgの昇圧を起こす用量:1000ng/kg・min)と低用量(昇圧を起こさない用量:200ng/kg・min)をWKYラットに静脈内投与し、ERKとJNKキナーゼ活性の経時的変化を検討した結果、JNKキナーゼ活性の上昇が重要であった。また、両用量において心臓と大動脈で細胞増殖因子であるTGF-β1と細胞外器質mRNAの発現亢進、形質変換が生じることは既に報告している。アンジオテンシン1型(AT1)受容体拮抗薬の前投与ほ血圧の上昇を抑制すると同時に、心臓でのJNKキナーゼ活性を抑制した。 亜急性実験:浸透圧ミニポンプを使用して、アンジオテンシンIIを400ng/Kg・day投与すると血圧は投与直後から3日後までは血圧の上昇は観られず、7日後に約10mmHgの上昇が観られる。このモデルでも、心臓のJNKキナーゼ活性の上昇が重要であった。 (2)自然発症高血圧ラット 24週齢の脳卒中易発症自然発症高血圧ラットの大動脈において、血圧の上昇前の5週齢、血圧上昇期の7週齢、高血圧の安定期にある10週齢、20週齢ラットの心筋でのERKとJNK活性は慢性的に上昇した。この上昇は、レニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与により抑制された。 以上の結果からJNK活性の上昇が心臓のリモデリングに関与していることが分かった。
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