臓器障害を細胞増殖と形質変換、その結果としてのリモデリングとして捕らえ、心筋細胞、血管平滑筋細胞、腎メサンギウム細胞の増殖性変化と形質変換の成立機序に関わる細胞内シグナル伝達機構を分子生物学的手法を用いて解明した。特に、病態との関連が重要であることは当然であり、従来までの培養細胞のin vitroの実験系ではなく、個別レベルでのin vivoの系にて解析することが重要な点であり、これらのモデル動物の大動脈や心臓でMAPキナーゼファミリーに属するextracellular signal-regulated kinase(ERK)、c-jun amino-terminal kinase(JNK)を介するシグナル伝達を調べる。次にAP-1複合体(ERKとJNKにより活性化される転写因子)等の遺伝子発現調節因子と細胞増殖や形質変換に関与する遺伝子群の解析を行った。 既報のごとく、ラットの頚動脈をバルーンカテーテルで障害することにより血管肥厚モデルを作製する。このモデルでは障害後約2日後から平滑筋細胞が内膜側への遊走と増殖を開始し、2週間後には著明な血管肥厚が形成される。これらの作用がアンジオテンシン受容体拮抗薬により抑制され、その系にMAPキナーゼが関与することを示してきた。そこで、平滑筋培養細胞を用いて(1)ERKの活性化キナーゼであるMAP kinase/ERK kinase(MEK)の特異的阻害薬(PD98059; 3と30mg/kg/day)、(2)p38の特異的阻害薬(SB203580; 3と30mg/kg/day)、(3)PDGF受容体のチロシンキナーゼの特異的阻害薬(CGP57148B; 5と50mg/kg/day)をそれぞれ投与し、投与後の情報伝達経路を解析をした。さらに、受容体のクロストークを検討するためにEGF受容体の関与も検討した。 その結果、アンジオテンシン II刺激によるERKの活性化はPD98059で阻害されたが、SB203580では阻害されなかった。また、EGF受容体のリン酸化阻害によっても抑制された。このことからアンジオテンシン IIによる作用は、アンジオテンシン受容体経由でERKを活性化する直接作用と、EGF受容体を活性化する経路があることが示された。
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